嵐を呼ぶ山田

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「だーめ」 ユウヤの鼓膜を懐かしい声が震わせた。 朔夜に直撃するその寸前、ユウヤの拳が纏っていた魔方陣が霧散した。しかし、勢いは削がれず、拳はそのまま朔夜の顔面に直撃。 「……っ!」 くぐもった吐息を漏らし、朔夜は再び池の中に沈んだ。すぐに顔を出すが、鼻や肺に水が入り込んだのか激しく咳き込む。 そんな朔夜を見もせずに、ユウヤは先程の声の主を茫然自失の体で見詰めた。 「…………神」 震えた声で名前を呼ばれ、神は優しく微笑んだ。 「ユウヤ、久しぶりだね」 「神……ぼくは……」 ユウヤは続けて口を開くが、それ以上言葉は出てこなかった。不意の友人の登場に戸惑いや郷愁、自嘲、歓喜、様々な感情が溢れだし、胸中をぐるぐると渦巻いているのだ。 「ユウヤ、おいで」 神が両手を広げる。迎え入れ、受け止め、温もりを分かち合う為に、ユウヤを呼ぶ。 「神……っ!」 ユウヤは瞳を濡らしながら、神の下へと駆け寄った。そして、 「この、大馬鹿!!」 抱き着こうとしたユウヤの頭に、神の拳骨が降り下ろされた。ガンッ!と鈍い音が響く。
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