嵐を呼ぶ山田

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――体育館らしき建物から出てきた少年を、冷たい夜気と幾つかの星が出迎えた。月の姿は見えないが、その代わり、雲の一部だけ透けるように明るくなっている。 『そこにいるのは――か。こんばんわ』 冷えた指先をポケットに突っ込んだ少年に声をかけたのは、大人になった俺、らしい。 流れで途中まで帰路を共にすることになった俺と少年は、他愛のない……と言うには少し質量のある会話をしながら、寒空の下を歩く。 『……そうだな。困ったことや悩んだことなんて、たくさんあった。それこそ星の数ほどあった』  少年と共に夜空を仰げば、先程と同じく視認できる星の数は少なかった。それでも俺は、雲のビロードや人為的な光に覆われ、隠れてしまっている星の存在を知っている。 『でもな、――と同じ悩みや困り事はなかったと思う。多分だが、全く同じ悩みなんてものはこの世には存在しないのではないかな』 『……ふうん』 『いつか、遠慮せずに――の心に踏み込める人が現れたら、何か変わるかもしれない。その時は……』 そうして柔らかく言葉を濁し、俺は穏やかに笑んだ。 『……いや、なんでもない。それは――が決めることだな』 会話が終わり、二人が共にする帰路も終わる―― そして、夢の場面は転換した。 「――しかもみんな大人っていうね!見た目は大人、中身は普通!その名も……あー思い付かねーから今のバーローネタはなかったことに!」 愉しげに一人でぺらぺらと喋り続ける皇紀に、メフィストが呆れた声で話し掛ける。 「……その夢とそのシャツと一体何の関係があんだよ」
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