嵐を呼ぶ山田

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不意に、凪いだ声が俺を包んだ。 声の主は、穏やかとも取れる声に縛り付けられた俺を一瞥して微笑むと―― 「祐也がそこにいると、メフィストを殴れないから」 ぎゅっと音がするほど強く拳を固め、俺の目の前に佇んでいたメフィストを力一杯殴り飛ばした。 「な――っ!?」 「…………っ!」 情けなく動揺の声をあげた俺とは違って、殴られた本人のメフィストは歯を食い縛り小さな吐息を漏らしただけだった。 あのメフィストが易々と殴られるとも思えない。まさかとは思うが、あえて拳を避けなかったのだろうか……? 「反省してよね」 殴り飛ばした張本人――レンは、熱のこもる拳を解き、ひらひらと振りながら冷たい目でメフィストを睨み付ける。 急転した事態に、俺は、庇うように立つレンを呆然と見詰めることしか出来ない。 「祐也を必要以上に混乱させないで……苦しめないで。今日の放課後、ちゃんと話し合うんだから」 手を伸ばせば届く距離で、懐かしい、柔らかな銀髪がふわりと風に揺らいだ。
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