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突然の馘首宣言を寝起きの頭が理解するまで、数秒を要した。
「じゃあな」
その僅かなタイムロスの間に、兎丸は、俺に背を向けて遠ざかっていく。
「え……と、兎々木さん!?」
「……うるせえよ」
昼休みの廊下に紛れようとする兎丸を呼び止めるものの、彼は心底鬱陶しいといった声を漏らすだけで振り返ろうともしない。
「そんな、待ってください!」
廊下に溢れる生徒を縫って足早に歩く兎丸を慌てて追いかけ、逃げてしまわないようしっかりとその腕を掴んだ。
亮太と比べるとかなり細身に見える彼でも、学生服に包まれた腕はしっかりと手応えを返してくる。
「パシリの分際で一丁前な会話しようとすんじゃねえよ……放せ」
「先程の兎々木さんの発言によると、僕は、もうパシりではないんですよね。会話くらいさせてください」
「ち……っ!」
舌打ちをする兎丸に臆さず、俺は機嫌の悪い横顔を見つめて、
「……もしかして、僕以外に新しく苛めたい人を見付けたんですか」
――問いに擬装して、考え得る限り最悪の答えを口にした。
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