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あまりこういった表現はしたくないのだが……個人的な能力でも、家の地位でも、勝る俺が兎丸たちに逆らわなかったのは、先日述べたように理由がある。
一つは、姉さんや……今の生活では作りたくなかった、メフィストたちのように親しい人を、巻き込みたくなかったこと。
そして、もう一つは――
「……他の人をいじめるんですか」
他人が、いじめの被害に遭うことを避けたい。そんな、俺の身勝手な思考からだ。
俺がいじめのターゲットになれば、他の人間はいじめられない。
とんだ下策だが、俺には、これ以上加害者も被害者も傷付かない策は思い付かなかった。
しかし。この下策を用いても、俺はひどく狭隘的な範囲の人間しか救えない。そんな自分が無力で、やるせない。なにより、
「……っ」
溢れそうになった溜め息を必死に堪え、飲み込む。
……本当に、世界は――人間は、くだらない。誰かを傷付けなければ、自分と他人を差別しなければ生きていけないだなんて。
そしてこれは、そんな傲慢な悪意の餌食になる存在を見捨てておけない、俺の傲慢だ。
「兎々木さん。答えてください」
兎丸が足早に移動してくれたおかげで、俺たちは、はからずも人通りの少ない廊下へと移動していた。人目を気にせずやり取りを続けることが出来る幸運にこっそり感謝をしながら、無言を貫く兎丸を見つめる。
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