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暫時、遠い昼休みの喧騒が沈黙を撫でた。
その間、微動だにせず無言を貫いていた兎丸だったが――
「はあ……うっぜ」
俺が諦めないと見るや、頭を振りながら溜め息を吐いた。長い黒髪がさらさらと流れる。
「別に次のパシりを見付けたとかじゃねぇよ。単に、もうお前をパシる必要がねぇだけだ」
「それは、どういう――」
「転校生」
兎丸の簡潔な一言に、俺は硬直した。続くはずの言葉が喉につまり、ひゅっと掠れた呼気が漏れる。
「アイツラ、お前の知り合いなんだろ?」
「…………」
気だるげな表情で問い掛けられる。その言動から悪意は感じられないが、油断は出来ない。
――メフィストたちに危害が及ぶ事態になったら、俺は、どうすればいいのだろうか。
自問するも、答えはでない。ただ一つ、危害を全力で排除した後、皆と距離を置くということだけは当たり前のように思考に組み込まれていた。
「……彼らを、どうするつもりなんですか」
「あ?どうもしねえよ。めんどくせぇし」
「…………」
淡々とした受け答えに疑念が積もる。
……いつから俺は、こんなにも汚くなってしまったのだろうな。
重く暗い胸中で自嘲をぽつりと呟けば、陰りを帯びた笑みが漏れた。
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