よいこのHow to 如月家☆

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「――如月祐也様。少々、よろしいでしょうか」 「……あ」  夕方の思い出に浸かっていた所を、男性の丁寧な口調に引き戻される。  結局、兎丸の血のにおいとやらは皆目検討も付かなかったが、あのベルが嗅ぎ間違えるわけがない。  一応緊急事態に備えていつでもメフィフトたちが俺のところに駆けつけられるようにはしてある上に、今現在もリアルタイムでこちらの様子を≪ビジョン≫という映像魔法で待機している皆に届けている。  とはいえ、時間も時間だ。眠気を感じた者は無理をせずに寝ていいと伝えてあるし、一応俺も「魔王」だからな。一般人、それも地球の人間に遅れをとることはないだろう。  一瞬で思考をまとめると、呼び掛けに答えるべく振り向き、 「はい、なんでしょうか――」  相手の姿を視界に収めた途端、俺はぴたりと動きを止めた。 「普段はお父上様の従者をさせていただいております」  目の前にいる男性――否、少年はいっそ慇懃無礼に感じるほど丁寧に頭を下げた。 「如月家従家、兎々木家次期当主、兎々木兎丸と申します……本日はどうぞよろしくお願い致します」  前髪の隙間から覗く瞳が、丁度今日の半月のようにきれいな弧を描いていた。
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