最初は説明からだな

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夕飯の支度の最中だったのか、私服の白いワンピースと、その上から掛けているピンクのエプロンがひらりと舞う。 俺から離れると、姉さんは高い位置で一つに結んだ黒髪を揺らしながら、頭を下げた。 「ご、ごめんねゆーちゃん!ゆーちゃんが帰ってきて嬉しかったから、つい……」 ……むぅ。全く、姉さんは狡い。そんな申し訳なさそうな顔で言われたら、怒れないではないか……例え、この熱烈な歓迎がいつもの事だとしても。 「……謝らなくても平気だ。姉さん、蚊に食われるといけないし、早く中に入ろう」 「うんっ!えへへ、ゆーちゃん、今日の晩ごはんは楽しみにしててね?私、頑張って作るから」 「……姉さんだけに任せると(台所や俺の身体が)大変だろうから、俺も手伝うぞ」 姉さんは満面の笑みを、俺は微かに引き攣った笑みを各々浮かべながら家に入る。 広く古めかしい純和風の家屋は、古い、しかし柔らかな木の匂いで俺を迎えてくれた。 如月無凪は、正真正銘、俺の三つ上の姉だ。 俺とすれ違いで並岡高校を卒業し、今は教員免許を取るために大学に通っている。 そして、如月流の師範代でもある。 「あ、そうだぁ!」 不意に、軽やかな足取りで俺の前を歩いていた姉さんが振り向いた。 結んでも尚腰まで届く艶やかな黒髪が遠心力で広がり、シャンプーの匂いだろうか、えもいわれぬフローラルな香りがふわりと散らばる。
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