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「…………」
大音声で恥ずかしいことを堂々と言い切るメフィストに、俺は声を失った。
……というか、襟元から服の中に髪が入ってきて気持ち悪いのだが。あちこち……特に背中がチクチクして堪らない。
背中を苛む髪の毛を気にしてそわそわとする俺には気付かずに、メフィストは立ち上がり、ゆっくりと俺の前へと回り込んできた。
そして、正面に来たメフィストと、視線がかちあう。
メフィストの目には、思わず息をのみ、気圧される程の……悲しみと喜びが写っていた。
「馬鹿野郎……っ!!」
鋭い声で罵倒される。メフィストの眦はキッとするどく、口もギリリと強い感情のせいで食い縛られている。
整った顔と相俟って、その形相は強い圧力を放っている。
しかし、俺はそんなメフィストに対して恐怖の念は抱かなかった。
何故なら、罵倒したメフィストの声は湿っていたから。
何故なら、メフィストの鋭い眦には、涙が滲んでいたから。
何故なら、メフィストの口元は、悲しみで歪んでいたから。
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