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カラン、と乾いた音をたてて床に落ちた眼鏡へと手を伸ばす。しかし、
「……なぁぁあに言ってんのかなぁ?」
あと少しで手が届く、というところで俺よりも早くメフィストに眼鏡を拾い上げられてしまった。
「お前は、どっからどう見ても俺達の知ってる祐也だろうが」
どうやら、メフィストが俺の椅子を引いたらしい。椅子の背に片手をかけたまま、もう一方の手で黒く艶やかに光るフレームをなぞりニヤリと不敵な笑みを浮かべている。
く、眼鏡が……ッ!!この眼鏡、意外に高かったのだぞ!?
ギリリと歯を食い縛る。下手に取り返そうとして眼鏡に傷でもついてしまったら、修理代で俺の財布の中身が悲惨なことになってしまう。
「……返して、ください」
「嫌だね」
即答。震える声での懇願は、バッサリと断ち切られてしまった。
メフィストが、その高い背を屈めて俺に視線を合わせる。その厳しい視線に射竦められた俺は、小さく息を詰めた。
「なぁ祐也。俺を、フィリアを―――――皇紀を、見ろよ。向き合って、俺達を迎え入れてくれよ」
懇願するようなメフィストの言葉に、俺には、情けなく視線を逸らすことしか出来なかった。
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