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一階、購買から少し離れている場所を俺は重い足取りで歩いていた。
同学年か、もしくは少し年上の少年少女が多く存在する廊下を俯くようにして通り抜け、目的地の下駄箱へと無言で歩を進める。
廊下の窓から差し込む光。柔らかで、活気に満ちた空間。
何となく視線を更に下へと向けると、微かな歩行音をたてる上履きが目に入った。
如月。上履きには、自他ともに認めるほどに綺麗な字で名字が書いてある。
今は見えないが、踵部分にも同じ物が書かれている。
「……はぁ」
俺は、深く溜め息を吐いた。連動するように肩が脱力し、落ちる。
俺は、何故如月の姓を名乗っているのだろうか。
そもそも、何故地球で暮らしているのだろうか。
再び如月の姓を受けて生まれてから十五年。何度も繰り返してきた問いを心中で呟く。
しかし、当然のことながら返答はない。
目を眇めるようにして窓の外を眺めれば、中庭に植えられた木々が風に揺られ、木の葉を舞わしていた。
植木や茂みのあちこちには、三人掛け程の長さのベンチが設置されている。
「メロンパンうまうま」
その内一つ。ベンチを一人で贅沢に陣取り、長身故の長い手足を投げ出すようにして寝転ぶ少年がいた。
窓を乗り越えたのだろうか、外靴ではなく上履きのままで中庭にいる。
「…………」
俺は即座に窓から目を逸らし、歩くスピードを上げて下駄箱へと急いだ。
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