嵐を呼ぶ山田

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「お、落ち着け……落ち着け、俺……」 動揺して乱れた呼吸と思考を沈めるため、数回ゆっくりと深呼吸をする。 「……ふぅ」 落ち着きを取り戻したと判断して再度隣を見れば、そこには、さも当然と言わんばかりにレンが俺と同じベッドに潜り込んでいた。 「れ、レン……」 「んぅ……」 深呼吸はしても、やはり多少混乱したまま躊躇いがちに声をかければ、レンは形のいい唇を僅かに開いて吐息を漏らす。そして、 「……ゆうや」 「…………っ!!」 静かに涙を溢した。 「おれを……ひとりに、しないでよぅ……」 まるで幼子のように拙い口調で泣きじゃくるレンに、心が痛んだ。 ―――――ああ、これではまるで、レキと同じではないか……。 レンを置いて姿を眩ますのは、仕方のないことだと思った。記憶を消し、偽の記憶を刷り込めば、己の代わりなんて幾らでも作れると思った。 実際に、魔王として相対したとき、レンは俺と居たときと変わらずに皆に接していた。だから、大丈夫だと、俺が―――――俺だけが、失う悲しみを背負えばいいのだと思っていた。 だが――――― 「ゆ、うやぁ……おれ、こわいよ……ひとりは、やだよぉ……っ!」
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