嵐を呼ぶ山田

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「とりあえず、早く出ていってくれない?」 レンの氷のように冷たい眼差しが、容赦なく俺へと突き刺さる。 「……はい」 「なに傷付いてるの?まさか、多くの人を傷付けた祐也に、そんな資格あるとでも思ってるの」 ストレートにぶつかってくる言葉の刃に、心を切り刻まれる。たしかに存在していた筈の覚悟という防壁はとっくに千千に破け、その鋭く尖った残骸が逆に俺の心を引っ掻き、突き刺さった。 「…………」 最早何かを喋る気力もなく、俺はみっともなく俯き、ベッドの足付近に揃えてあった上履きをのろのろと履いて、重い足取りでベッド周りのカーテンをくぐった。 シャッ、と音をたて、キチンとカーテンを閉め直してから俺は遅れ馳せながら辺りを見回した。 「…………」 俺とレン以外の他人の気配は、なし。 無人の保険室を横断し、なるべく音をたてないようにドアを少しだけ開けて、そろりとその隙間を滑るようにして廊下へと出た。 またまた音をたてないようにゆっくりとドアを閉めようとした、その時。 「……あ。眼鏡を忘れた」
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