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「……じゃあ、僕はこれで」
俺は、脱力したまま踵を返して購買へと向かう。新しく昼食を買い直すのだ。
購買を利用する生徒は多い。完売していなければいいのだが……。
「……はぁ」
明るい日差しの溢れる中庭に到底似つかわしくない、暗い溜め息を吐く。
俺はとぼとぼと中庭を横切った。
その重い足取りが、俯いた表情が、明るい周囲とは違い浮いてしまう暗い雰囲気がいけなかったのかもしれない。
「んぁ?如月じゃねーか」
声を掛けられた。
演技などではなく、冗談抜きで肩がびくりと跳ねた。
固い動きで声の方向へと視線を向ける。視線の先には、日差しも木の影も丁度同じくらいに混じりあったベンチが存在していた。
光と影の混在する場所、そこには―――――
「……喜多村、さん」
「おう、クラスメートの喜多村皇紀だぜぃ!名前覚えててくれたんだな!」
―――――一人でベンチを独占していた少年、喜多村皇紀がいた。
「…………」
俺は、気付かれないようそっと息を詰めた。
失敗した。
何故、平然と、平凡とした当たり障りのない雰囲気を醸し出さなかったのか。
俺は……俺には、関わり合いになる資格などないのに―――――。
ネガティブな思考が頭を埋め尽くす。
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