嵐を呼ぶ山田

55/106
前へ
/276ページ
次へ
「……ゆー君」 確認のために階段を覗いている最中、すぐ後ろから控え目に声をかけられた。誰何の声をかけるべくもなく声の主は分かっているため、慌てて後ろを向いた。 「フィリア……さん、どうかしましたか?」 危ない、もう少しで呼び捨てにしてしまうところだった。 ボロが出ないよう、細心の注意を払いながらフィリアを見やる。フィリアは俯いていた。ふわふわとした柔らかそうな髪が垂れ、その小さな顔を覆い隠している。 「…………」 「……フィリアさん?」 そのまま一言も発しないで黙り込んでしまったフィリア。疑問に思い、再度声をかけても返事はない。すっかりただの屍化してしまったようだ。 「……とりあえず、クラスに戻りませんか?」 「…………」 返事がない、ただの屍のようだ。 「クラスに戻りますからね?」 このまま立ち尽くしているのもあれなので、俺はフィリアの手を引いて歩き出した。 そして、きっかり三歩でその歩みを止めた。
/276ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14383人が本棚に入れています
本棚に追加