嵐を呼ぶ山田

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「あ……っ!え、えっと、その……」 動揺のせいで情けなく上擦った声をあげながら、俺は咄嗟に振り向いてフィリアを見た。 先程まで俯いていたフィリアは、俺が先導して歩いていたせいか顔をあげていた。しかしそれも一瞬のこと、目が合うとすぐにまた顔を俯かせてしまった。 「あ……」 ちらりと、しかし確かに見えたその顔は真っ赤に染まっていた。 「ふぃ、フィリアさん……?」 「……っ!」 おずおずと声を掛ければ、目の前の小さな肩がびくりと震えた。しかし、頑として繋がれた手は離れない。しっかりと繋ぎ止められている。 ―――――可愛すぎる。 内心で小さく呟き、それから恥ずかしげもなく浮かんできた言葉(気持ち)に余計に羞恥心を煽られる。 熱い。 顔が、熱い。身体中の熱が顔に集まっているみたいだ。きっと、俺の顔はフィリアと同じか、それ以上に赤くなっていることだろう。 ―――――ああ、演技をしなくては。ダメだ、引きずり込まれては、感情にほだされてはいけない……。 必死に自制心を働かせようとするが、どこか頭がぼんやりと痺れて中々上手くいかない。きっとこの変に甘い空気のせいに違いない。 「…………」 今すぐにフィリアを抱き締めたいという衝動に駆られる。抱き締めて、腕の中に閉じ込めて、二人分の体温を分かち合いたい。 フィリアが手の届く場所にいるのだと、生きて、俺の傍にいるのだと実感したい。俺は今ここにいるんだと、教えたい。 繋がれた手だけでは、あまりにも頼り無くて。本当にそこにフィリアがいるのか、俺がいるのか不安で。 思考がどんどんこんがらがっていく。
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