嵐を呼ぶ山田

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翌日。 昨日の蒸し暑さはどこへ行ったのやら。カラッと晴れた空はどこまでも青く澄みきっていて、空気も清々しい。 未だに悩みをかかえたままの俺は、それでも惰性でいつものように玄関で靴紐を結ぶ。 「行ってくる。姉さん」 『……行ってきます、無凪さん』 聞こえないことは分かっているはずなのに、小さく無凪姉さんへと挨拶をしたユウヤ。それが微笑ましく感じて、俺は頬を緩ませた。 「行ってらっしゃい、ゆーちゃん!」 満面の笑みで俺に手を振る姉さんへ手を振り返し、俺は広い玄関の戸に手をかけた。 がらり、と心地よい音を響かせながら引き戸が開く。 「ゆーうや!おはよう!!」 がらり、と心地よい音を響かせながら引き戸が閉じた。 「ふぅ……」 「ゆーちゃん、どうしたの?」 「ああ、いやなんでもない。少し幻覚を見ただけだ」 勿論そんな言い訳で納得するべくもないが、大丈夫、と念を押して俺は姉さんを無理矢理玄関から退散させた。
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