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8月2日2時間目
シーン、と空気が張り詰める音がする中黒板にチョークで文字を書く音だけが響き、一通り書き終えれば教室内を見渡す
「...それじゃあ、この問題を木下、解いてみろ」
名前を呼ばれれば眠たそうに目元を擦り「...ひゃい?」と尋ねてきた。呂律が回っていない
「...だから、この問題解けって言ってんだよ」
話を訊いていない事に苛々とした様子でもう一度言えば木下は少し焦った様子で唸っている
「...分からないか?」
仕方なく助け船を出せば、小さく頷く相手にやれやれと溜め息を吐き答えを言う
そうこうしていれば授業終了のチャイムがなり、生徒が立ち上がり小さく礼をする
そして生徒が解散していき、その中で一人の生徒を呼び止める
「あ、何ですか?」とキョトンとした様子で尋ねてきた相手を軽く小突く
「何ですか?じゃねぇっつの。木下...お前注意したばっかなのにまた寝てたろ?」
そう云えばえへへ、と笑っている相手の顔が目に入り危うく殴りそうになった
「だって、数学難しいんですよー」
へらへらと笑いながら彼はそう云えば、自分の教え方が悪いのだろうか...と小さく溜め息を吐く
木下はバスケのスポーツ推薦でこの学園に来た生徒でバスケの腕はかなりのものらしいが、頭が弱い
「お前が授業を訊いていないから分からないんじゃないのか...?」
苛々とした口調で尋ねれば「後で翔汰に訊くんでー」と笑顔で返してきたから堪ったもんじゃない
木下は性格も良く、目が大きく所謂可愛い顔をしている為何か言われると断るにも若干躊躇う
「あぁ...白井か。お前アイツに頼ってばっかじゃ駄目だからな?」
念を押す様に云えば相手は頷く
白井という生徒は成績優秀で、そんな彼に成績不良である木下の面倒を忙しい自分の代わりに見て貰っている訳だ
木下の世話を彼に頼んだ原因は、単純に彼が成績優秀であるからというのと、もう一つある
完璧過ぎる彼は子供らしい純粋さを感じられない
もう三十路近い自分ですら子供っぽい面があるといるのに、高校生の中坊である彼に子供っぽい面がないだなんて。
子供にしか出来ない事があるのだから絶対に損する。
せめて子供っぽい木下が近くにいれば何らかの影響を受けるのでは...
そう考え木下の世話を任せた訳だが、こう木下が白井に依存していては寧ろ父性心が目覚めてしまうのではないだろうか?
判断を間違えたか、と俺は小さく肩を竦めた
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