気まずい二人

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 どうしてこういう日に限ってこんなにも暑いのだろう。  高校へ続く長い坂道を上りながら、葦乃碧(よしのみどり)は心の中で愚痴をこぼした。  今日は二年生の恒例行事である、体験合宿があるのだ。  体験合宿というのは学校長の知人が運営している宿を借り、そこで自然と触れ合うことを目的とした合宿を行うのである。  とは言っているものの、実際はさほど予定も詰まっておらず、ただ生徒たちが楽しくワイワイ遊ぶだけのようにもみえる。  事実、今の三年生は「受験前に楽しい思い出ができて良かった」や、「遊んで過ごしただけだった」と言っていた。  ただ、夏だからと暑さには文句を言っていたが。  学校長は何の目的でこの行事を始めたのだろう?  碧はぼんやりと考えながら、荷物のたくさん詰まったリュックを恨めしく思いつつも坂を上った。 「みーどり、おはよ!」 「皐月、おはよう」  後ろから聞こえた葉風皐月(はかぜさつき)の声に、碧は笑顔で振り返った。 「あら、今日は少し元気がないみたいね」  碧は思わずぎくりとして皐月の顔を見た。  皐月の洞察力、恐るべし。  動揺がバレぬよう気をつけ、碧は小さく首を振った。 「ううん、そんなことないよ」 「本当に? 怪しいわねぇ」 「本当だってばぁ」  碧ははぐらかすように「あはは」と笑った。  皐月とは小学校からの親友で、彼女は家元のお嬢様だという本来ならあたしなんかとは釣り合わないような王道ヒロインなのだ。  けれど、昔から気も合うしもう長い付き合いになるので、今となっては一緒にいることが当然になっている。 「あ、あれって二階堂君と紘田君じゃない?」 「えっ?」  昨夜からずっと“彼”のことを意識していたせいか、碧は思わずどきっとして声を上げた。  あぁもう、何してるのさあたしっ! 「あっ、手振ってくれてる! やっぱり碧がいると気付いてくれやすいわ」 「ちょっと、それどういう意味? もう、そんなんじゃないって言ってるじゃんかぁ」 「とぼけないの。ほら、碧も」  坂の上にいる二階堂輝(にかいどうあきら)と紘田忍(こうだしのぶ)に向かって渋々手を振った。  表情はよく見えないが、二階堂輝が不愉快なのであろうことは見ずとも解った。
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