お気に入りの時間

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家を出た俺と咲は、いつも2人でよく買い物をする街の最寄り駅で電車を降りた。 駅前にあるカフェからは、焼きたてのクロワッサンの香りが漂ってくる。 この先の道を真っ直ぐに行って信号を右に曲がると、あのピンク色の石のネックレスを買ったデパートのジュエリーショップがある。 服や靴などの店だけでなく、通り沿いにはカフェやパン屋や輸入食品を扱う店なんかもあって、 通りを歩く人の中には外国人の姿もちらほらと見えた。 ある一軒の店の前まで来ると、咲が歩く速度を緩めて立ち止まった。 咲は、ねだるように俺を見上げてくる。 「ね……ちょっとだけ、いい?」 「どーぞ。」 クスッと小さく笑って了解の言葉を伝えると、咲の瞳がぱあっと華やいだ。 その店は、主にキッチングッズを扱っている雑貨屋だった。 この街で買い物をする時、咲は必ずと言っていいほどこの店に立ち寄る。 家で使っているコロンとした北欧のマグカップも、 ごつごつした手触りのお茶碗も、 お湯を沸かす琺瑯(ほうろう)のケトルも、 みんなこの雑貨屋で買った物だ。 店内に入るとすぐに、咲は繋いだ手を離して店内の商品の物色を始めた。 少しはしゃぎ気味にあれこれと店内を見て回る咲が可愛くて、俺は口元を緩ませる。 ……目、キラキラしてるし……。
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