お気に入りの時間

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咲がランチョンマットを選んでいる間、俺は適当に近くの棚に置いてある物を見て回った。 通路を挟んで隣りの棚。 ボウルやフライパンなどの調理道具や、ワッフルメーカーやミキサーなどの家電が並んでいる。 その一角に置いてある楕円形の鍋が、ふと目に留まった。 それはル・クルーゼという会社のフランス製の鍋だった。 重厚感のある造りでありながら、その色づかいと洗練されたフォルムはインテリアの一部にもなりそうだ。 深みのある赤、チョコレートみたいなブラウン、絵の具で描いたような白……、 色のバリエーションが豊富なその中で、俺はオレンジ色の鍋の蓋を手にとってみた。 蓋だけでも、ずっしりとした重みを感じる。 鍋の内側は白くて、食材の色がよく映えそうだ。 「あ、その鍋。」 いつの間にか俺の傍に立っていた咲が、ひょこっと横から鍋を覗き込んで言った。 「これ、さっきアキラが使ってたのと同じ色じゃない?」 「……アキラって?」 「ほら、さっきの食器用洗剤のCMに出てたイケメン俳優の人。」 「……あ、アイツね……」 「カレーを作った鍋を、撫で洗いするシーンがあったでしょ?あの時使われてたの、たぶんこのオレンジのル・クルーゼだと思う。」 「そうだっけ?」 俺は、わざと興味なさそうな言い方をして鍋の蓋を元に戻した。 ……どうりで見覚えがあると思ったら、さっきのCMでアイツが使ってたのか……。 ……つーか、あんなに嬉しそうな声でアキラ、アキラって……面白くない……。
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