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「コーヒーのお湯だけ、先に沸かしておこうかな。」
夕食後にコーヒーを飲むのが、俺と咲の日課になっている。
立ち上がろうと腰を浮かせた咲を、俺は制した。
「今日はいいよ。」
「え、でも……」
「今日は、違うのにしようぜ。」
俺は立ち上がってキッチンに入ると、冷蔵庫からワインを取り出してカウンター越しに咲に見せた。
「ワイン?」
「そ。たまには、いいだろ?」
「うん。」
俺の提案に、咲は嬉しそうにふわりと微笑んだ。
咲が食べ終わるのを待ってから、ローテーブルの上にグラスを2つ並べてワインを注ぐ。
「「乾杯」」
お決まりの文句を口にして、俺と咲はグラスを合わせた。
静かな部屋に、チリンという軽やかな音が響き渡る。
「いい音。私、この音好き。」
咲は独り言のように呟いて、グラスを傾けてワインを口に含んだ。
「……わ、美味しい……フルーティーだね。」
「これ、フルーツワインなんだ。甘口だから咲、好きだろ?」
「うん、甘くて飲みやすいね。」
アルコールがあまり強くない咲は、既にほんのりと顔が赤くなっている。
「もう赤くなってる。」
俺は、ワイングラスを持っていない方の手の指で、咲の頬をするりと撫でた。
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