お気に入りの時間

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咲は俺が触れたところを、今度は自分の指で触れると、恥ずかしそうな表情を浮かべて言った。 「私、すぐに赤くなっちゃうの。でもまだ、全然酔ってないから。」 「口当たりいいからって、あんまりペースあげると酔っぱらうよ。」 「んー、これくらいなら大丈夫。」 そう言って咲は、ふにゃっとした笑顔を俺に向けて、またワイングラスに口をつけた。 俺はソファーにゆったりと座りながら、その様子を眺めた。 柔らかな唇がワイングラスにそっと押し当てられて、 傾けたワイングラスから、半開きになった咲の唇の隙間にワインが流れ込む。 ワインが口内に入り込んだ瞬間、咲はそっと目を閉じた。 想像通りのその行為に俺は、ふ、と顔を緩ませる。 咲は、飲み物を飲むその瞬間、目を閉じる癖がある。 イタリアンレストランでランチを一緒に食べた時も、コーヒーカップに口をつけたほんの一瞬、咲は目を閉じた。 ―――あの頃、 向かい合わせに座ってランチを食べながら、俺はこっそりとその様子を観察していた。 メニューを選ぶ時の、ちょっと困ったような瞳。 料理を食べて「美味しい」と微笑んで細められた満足そうな瞳。 コーヒーにミルクを入れる時の、真剣な瞳。 そして、俺に見られていたことに気付いて真っ赤になった時に見せた、恥じらうような瞳。 クルクルと表情を変える咲が可愛くて、 癖や仕草やちょっとした表情の変化も見逃したくなくて、 俺はいつも見とれるように咲を見つめていた。
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