お気に入りの時間

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―――ダメだ。顔がにやける……。 何度も口元が緩みそうになるのを、ぎりぎりのところで、グッ、とこらえる。 俺が、からかって。 咲が、照れて赤くなって。 完全に、俺のペースで。 くすぐったいくらい幸せで、甘ったるい休日のひととき。 こんな風にソファーでじゃれあって過ごす時間が、俺の一番お気に入りの時間だ。 咲の華奢な指が、俺の手に触れた。 「これ、離して。」 手の力を緩めると、俺の手からワイングラスが奪われる。 コク、と喉を鳴らす音が聞こえて、咲がワインを飲んだのだと理解した。 目を閉じているせいで、いつもより音に過敏に反応してしまう。 ワインを飲んだあとに漏れた、咲の小さな吐息。 コト、とグラスをテーブルに置いた音。 ギシ、とソファーが軋む音。 「……拓ちゃん……」 俺の名前を呼ぶ咲の声がいつもより甘ったるく聞こえるのは、気分が高揚しているからだろうか。 「動かないでね。じっとしてて……」 「ん。」 咲が近づく気配を感じてすぐに、目の前が陰って暗くなる。 ……あー……やっぱ、顔見たいな。 瞬間、目、開けちゃおうかな……。 そんな事を考えながら、俺は咲の声を聞きとろうと、耳に全神経を集中させていた。 だからそれは俺にとって、ものすごく突然で衝撃的で。 その瞬間、びりびりと身体が痺れたように感じた。 ドクン、と大きく心臓が1度跳ねたあと、胸の鼓動がドクドクと速くなっていく。
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