お気に入りの時間

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唇に感じる、湿った感触と熱。 目を閉じたままの無防備な俺の唇は、咲に優しく奪われていた。 思わず、目をばちっと開ける。 ……俺……咲にキスされてる? そう自覚すると同時に全身が熱を帯びて、カアッと顔が熱くなっていく。 俺の視界に入ってきたのは、咲の伏せられた長い睫毛のドアップ。 緊張しているのかそれは、ほんの少し震えていた。 遠慮がちに触れる唇が、まるで焦らされているようでもどかしい。 キスなんて今まで何度もしているのに、俺はカチカチに固まったまま咲のキスを受けていた。 そう、完全に受け身だった。 俺は身動きひとつできずに固まったまま、咲に身を任せていた。 ほんの数秒触れただけで、ちゅ、と音を立てて咲の唇が離れる。 「は……」 俺は無意識のうちに入っていた身体の力を、ゆっくりと抜いた。 ありえないくらい、心臓がバクバクと音を立てている。 ……何だよ、これ。 キスされただけなのに、何で俺、こんなにドキドキしてんの?
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