オオカミと少年

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 それからほどなく、のんびりと草を食んでいた羊達の間に異変が起こった。  なだらかな傾斜を描く緑の稜線を、埋めつくすように拡がっていた羊の群れ。  その向こうから、断末魔のような啼き声が上がり始めたのだ。 「来た! オオカミだーっ!」  少年の声を皮切りに、丘の向こうから羊の大群が押し寄せて来る。  まるで何かから逃げるように、鬼気迫る表情で駆けて来る羊達。  その発生源とおぼしき場所には、一匹のメスの羊が取り残されていた。 「め……め゙ぇえええっ!」  目を凝らすと、牝羊は一人の男に抱えられている。 「ハァーハァー……!」  肩で荒い喘鳴を繰り返す男の頭部には、薄茶色の三角の耳。  そして腰の辺りからは、同色の大きなシッポが揺れていた。 「オオカミだぁーっ!」
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