入学式なんて存在は俺には関係ないことである

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決められた座席に座り天井を見つめる。 四月の肌寒い空気は体育館を凍らせている。パイプ椅子がキシリと軋んだ。 春はもう少し先な気がする。 周りが喋る声が小さくなって入学式の始まりを告げる。 俺は椅子に深く腰掛けて俯いた。どうせ教師もわざわざ注意しにこない。 俺はそれをいいことに寝ることにした。だって入学式は寝るに限るだろ。 (仲間探しかー…‥) うとうとしながら昨日見た夢を思い出す。 澄みきった空のような浅葱色。 燃えるように深紅の生地に刺繍された輝かしい黄金の誠。 今まで興味なかったようなものが、それを思うだけで胸を焦がすように熱い。 (沖田、総司…) その名前は本当に特別なようで。 スポンジに水を染みこませるようにジワジワとやがて一致する。 沖田総司は紛れもない俺なんだ。 パチパチと拍手がまばらに聞こえる。お偉いさんたちの長いながーい(大事なので二回)お話が始まったようだ。 (あれ…?) 体が熱い。 この、感覚は知っている…。 「…ですから、皆さんも楽しい学校生活を送り、そして…」 お偉いさんの話は頭を素通りしていく。だけどさぁ…、そんなこと構ってられないんだよ。 ドクンと血液全部が沸騰しているような錯覚に陥る。 そして昨日みたいにぼやけた映像が流れこむ。
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