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「言うな、眞柴。先輩のえんじ色よりマシだ」
遠藤君が眞柴君の肩に手を置いて、さも深刻そうに顔しかめて首を振る。
それにしても遠藤君の体、鍛えられててすごいなあ。
僕なんか、ひょろひょろで……。これでも力や筋肉、ついてきたんだけどなぁ。
「ああ、鶴見先輩の訓練服姿……」
眞柴君がどこか遠い目をした。
鶴見先輩は、僕らの一つ上の三年生で、身長の高い、色黒のがっしりした人だったと思う。
「……あの姿見た時、ああ、先輩も中学生だったんだなー、って思ったよ」
遠藤君は、よほど鶴見先輩のえんじ色の訓練服姿がショックだったらしく、肩を落としている。
そんな会話をしながら僕らは着替えを終え、武器庫に行く。
武器庫はちょっと暗くて、苦手だ。
武器庫の管理教官に、自分の名前と銃のシリアルナンバーを伝えて、ずしりと重い小銃を受け取る。
89式自動小銃。
僕らは89(ハチキュー)と呼んでいる。
この、前の持ち主はどんな人だったんだろう。
何度も磨かれたらしい89は、黒のメッキが落ちて、鈍い銀色に輝いている部分が何カ所もある。
大切に丁寧に使ってた人だったらいいな。
努力家で、しっかりしていて、優しい人だったらいいな。
「今日もよろしく、『クルス』」
眞柴君が89に話し掛ける。眞柴君が銃に名前を付けてるのは、クラスメイトの大半が知ってる。映画好きの眞柴君のことだから、映画の影響だと思う。
遠藤君が不思議そうな顔をした。
「あれ? 前はベアトリーチェじゃなかったか?」
「この間、僕の銃のボディに十字傷を見つけてさ。フルネームが決定したんだ。
べアトリーチェ・クルス。
これぞ我が銃。
銃は数あれど我がものは一つ。
これぞ我が最良の友。我が命。
我、銃を制すなり。我が命を制すごとく。
我なくして銃は役立たず、銃なくて我役立たず。
我、的確に銃を撃つなり。我を殺さんとする敵よりも勇猛に撃つなり。
撃たれる前に必ず撃つなり。
以下略。
アーメン」
「なんだそれ」
「アメリカ海兵隊信条」
「お前……、ここ日本だぞ」
「オーノー、ユーがイングリッシュ苦手だからって、アイズエネミーにしないで下サイ」
「嘘っちい英語をわざわざ使うな」
眞柴君の冗談に、遠藤君が軽く眞柴君の太股を蹴っていた。
……仲、いいなあ。
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