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「スコープ付けたら、こんなふうに見えるんだろうね。
こうやって見たら、月も簡単に撃てそうなのになぁ」
眞柴君が望遠鏡を覗いたまま言った。
現実には月を撃つなんて無理だ。
地球から月を撃つには遠すぎるし、重力や大気摩擦がある。
仮にもっと身近な遠方物を撃つとして、スコープを使って目標を捉えても、それを撃つには色々な障害や考えるべきことがある。
標的の動き。風速。風向き。湿度。目標までの距離。弾道。使用する弾の質量。
天体観測だって、地球は凄い速さで自転しているから、星を捉えても数分したらその星はレンズからいなくなってしまう。
風や大気の激しい揺れがあると、映像がぶれて綺麗に見えない。
「眞柴、お前、狙撃手(スナイパー)になりたいのかよ?」
「映画観てて、カッコイイなとは思うけどね。実際はキツイなんてもんじゃなさそうだしなぁ。
伏せ撃ち体勢で数時間いろって言われたら、数分で寝る自信があるね」
「自慢するなよ、んなこと。
ニナイは? 望遠鏡の扱い上手いし、狙撃手とか狙ってんのか?」
遠藤君の言葉に、僕はぶんぶんと首を横に振った。
とんでもない!
僕は望遠鏡の扱いには慣れていても、射撃の腕は全然だし、だから目標をレンズに捉えても撃てるとは限らないわけだし、そんな持久力も集中力も精神力もない。
何より、そんな人殺し専門みたいなの、絶対に嫌だ。
撃つ対象が人間とは限らないし、狙撃手を悪いって言ってるわけじゃないけど、絶対絶対嫌だ。
僕がなりたいのは、医師だから。
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