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旦那さんは、徳一が赤ちゃんの時に病気で亡くなったとしか訊いてへん。
そのあと、火事にあい思い出の品も写真も全て失ったらしい。
先輩は旦那さんが亡くなってから一人でずっと、徳一だけを護って生きてきたような人や。
俺よりずっと大人で尊敬できる初めての大人やった。
俺には知っての通り大事な人が‥忘れられへん人が居る。
いつも、相談半分冷やかし半分で話を訊いてくれたんや。
「しかし、浮いた噂の一つもないなぁ。」
「ハハハ、やって俺、一途やから‥‥って違うか、アホやからかな?一人しか考えられへんねん。」
「ええねぇ‥そんな恋、私もしたいー!」
「先輩もそうですやん。やから、一人でのり君を育ててるんでしょ。」
そう訊くといつも嬉しそに、自慢気に
「まぁねぇー。」って幸せいっぱいに笑う人やった。
先輩の望みは、徳一が大人になって幸せな恋をして大事な人と共に歩んで行く事。
ただ、それだけやった。‥‥
俺も先輩とおんなじ気持ちやった。せやから、俺から結婚しよやって‥‥
真剣な顔つきで話を訊いていた義行は小さな声で
「おじさんは何でそんな事が出来たン?‥‥」
「そやなぁ‥‥きっとアノ時の俺にしかでけへん事やったんやろ‥それに、徳一と先輩を切り捨てられへンかってン。」
煙草に火を付けて言葉を続ける。
「唯一、俺の好きな人との関係を否定せず応援してくれた人やしな‥‥俺にとって何が一番大切かを再認識させてくれた人や‥」
「そんなん‥‥じゃぁ、逢いたいって書いてあった人はどうなるン?おじさん結婚してたら、一緒になられへンやン‥‥」
「まっ、もともと一緒にはなられへン。男同士やしな‥‥けど、俺は後悔してへん。きっとアイツには解ってもらえるって信じてるし、先輩とも約束したし‥また、昔みたいにって自信なんか無い、‥‥それでもええねん。‥‥もしアカンかってもアイツが幸せやったらそれでええねん。」
そう言って、照れくさそうに少し寂しく笑った。
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