季節外れの‥‥9

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「藤原‥」 俺の腕を掴む。 「仕事‥終わったンか?」 掴まれた腕を見ながら、 ‥間抜けな事を訊くんや。と、思った。 どうみても俺が後をつけてたやろ。 「‥なぁ、家ソコなんや。寄っていけや‥」 その言葉で我に返り、 「‥アホか、何を考えてんねん!」 掴まれた腕を払いのけて突き放す。 「大丈夫やから、ゆっくり話したいねん。」 「何が大丈夫やねん‥俺は‥話なんか今は、訊きたない‥お前の家なんか絶対に、行きたない‥」 「藤原‥‥」 力なく目を細めた顔。 この顔見るンは二回目や‥‥俺が大学に行く時もこんな哀しい目してた。 なら、ホンマはあの時も離れたなかったンか? 静かに心が叫び出す‥ ‥‥このまま一緒に居りたい。 心に頭がついていけず、何故か涙が頬を伝う。 アイツの指が俺の涙を拭う。 「‥泣かんとって、俺、お前を泣かしてばっかりや‥‥。」 そう言いながらも後には引かない井本がいた。 「何で俺が結婚したって知っとったン?」 「神社で‥‥手紙みた‥」 「そっか‥」 「せやけど、雨で滲んで読めなんだ‥‥ごめんッて書いたぁッた‥」 俺は俯いたままこたえる。 「そっか‥続きゆうてええか?‥」 「訊きたないってゆうてるやろ‥止めてや‥‥」 優しく尋ねてくる井本に泣き笑いでこたえる。 どんなに拒絶しようと限り無く、俺に優しい井本が切なく恋しい‥‥ 俺が今ここで抱き締めて‥‥ 今でも、好きやねん、ッてゆうたら‥‥ ‥‥抱き締め返してくれるやろか‥ 傍に居るよッて‥ゆうて‥‥ そんなこと叶うわけがないのに‥ ‥アイツには大事な人が居るッて知ってるやろ‥ 情けない自分に言い聞かす。
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