季節外れの‥‥9

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何も言えずに黙ったままで居ると、 「俺は‥お前の話が訊きたい。俺の話も、訊いて欲しいねん。」 俺の肩に手を置き、辛そうに呟く。 その手を払いのけ、 「ええ加減にしよや‥俺にかて、時間が必要やと思わんのか?‥今日かて、仕事が入る迄は会おうと思ってた。けどな、それは単に酒を一緒に‥ってゆう程度のもんや‥‥」 静かに淡々と決意が揺るがないように、今の気持ちを話す。 「やから!訊けや!」 ケンカ腰で電柱の影に押しやられる。 「何すんねん!訊かへんッてゆうてるやろ!‥‥そんな事してもたら、友達で居られんようになるやろ!」 余りにも一本槍なアイツに腹が立って口調が荒くなる。 「‥何でなん、俺とはもうアカンのか?‥嫌いなんか‥‥」 初めて見る涙で揺れる瞳‥ 情けない顔‥‥ 「逢いたかった‥ってゆうてくれたやン‥」 俺の腕を掴みじっと見つめる。 「‥忘れられへん‥ってゆうてくれたやン‥」 なぁ‥嘘やったんか‥‥と、小さく呟いた。 ‥抱き締めたい、けどそれが出来ない関係を作ってしまったアイツに苛立ってしまう。 だから‥‥ 「ゆうたよ‥‥けどな‥簡単には逢えん状況こさえたんはお前やろ!‥それに、そんな言い方ないやろ!‥さっ、先にお前が離れて‥‥俺を突き放したんはお前やろが!‥」 「‥!!‥‥‥」 俺からの心ない棘の塊に双眸が傷付いたように歪む。 掴んでいた手が離れて身体が震えている。 ‥違う、こんな事言いたかったンやない、ホンマは知ってた。俺の為やって‥ いっつも、俺の事を考えてくれてたって‥‥ けど。‥ 「‥悪い、言い過ぎた‥ホンマはちゃうねん。‥‥ただ、今は時間が欲しいねん‥‥」 驚愕して目を見開いたまま身動きの出来ない井本に許して貰いたくて言葉を探すが、出てこない。 「せやな、‥悪いンは俺や。けどな‥‥俺にはお前しか居らへんねん。後にも先にも‥藤原だけなんや。俺にはこれが、最初で最後の恋やねん‥‥忘れんとってや、迷惑かもしれんけど‥‥」
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