季節外れの‥‥9

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それだけは、忘れんとってや‥‥そう言って、唇が重なる。 押し退けて身体を離すが、再度重ねられて壁に押しやられる。 力が抜け落ち固く閉じた口が薄く開く。何度も角度を変え口腔深くまさぐられ、舌を絡めとられる。 まるで俺を抱く代わりかのように口腔を犯すような熱いキス‥‥ 「‥んっ、‥ンはッァ‥‥ヤッ、ンッ‥」 途切れ途切れ声が吐息と一緒に零れる。 涙が溢れて止まらない。 嫌悪感じゃなく、 嬉しくて、切なくて、愛しくて、 抱き締めて欲しくて胸が痛む。‥ けど、井本は涙に気付き 「‥悪かった、ごめん‥‥こんなん、キスやないな。‥‥ただの暴力やんな‥‥けど、忘れんとってや‥恨んでくれててもかまへんから、俺を憎んでてもかまへんから‥‥お前の心に居れるんやったら、それでええから‥‥もう、しつこに付きまとわんから‥」 そう言って俺を置いて行ってしまう。最後に俺の涙を拭うように目元に優しくキスして‥‥ せやから、笑っててや‥‥そうゆうて、淋しげに頬笑んだ‥ 後ろ姿を見送って、今度は悲しみの涙が溢れて止まらない。‥ ‥違うんや、待ってや。 言葉に出来ない想いが胸を締め付け口に出せない。 ‥俺はアホや、今、引きとめらなもう逢えんようになる‥ 追い込まれたふりして、追い込んだんは俺や‥ 傷付いたふりして、傷付けたんは俺や‥ ‥‥最低や!! ‥‥‥。 ‥‥。 ‥もう逢えん、あぁ‥‥、きっとアカン もとには戻らへん‥‥ ‥最低や!傷付けてしもた 誰よりも、大切やったアイツを‥‥ 俺には、アイツしかおらんのに‥‥ 電柱の影に踞って、暫く茫然としていた。‥‥
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