44人が本棚に入れています
本棚に追加
公園に着くと既にくわえ煙草の井本がいて入口で待っていた。
ベタな話だが、携帯用灰皿はパンパンに膨れていた。
息せき切った俺をみて安堵するように笑い、
「なんも、走ってこやんでも良かったのに。‥俺、お前待つンやったら何時間でも‥‥」
言いかけて口をつぐむ。
「‥ごめん、俺からゆうといて遅くなって。」
一時も無駄にしたくなくて話を切り出そうとすると、
「ここは、声が反響するし、別のとこ行こや。」と、歩き出す。
「えっ?‥ぉん。」
アイツの横を少し遅れて歩く。
「どこ行く?‥お前は時間あんの?‥ 」
振り返り尋ねる。
「ぉん。‥」俯いたままで答えると、クスクスッと笑い声が聞こえる。
顔を上げてみると、優しい笑顔があった。
「全然変わってへんな‥お前はあの頃のまんまや‥‥」
立ち止まり、俺の前髪をかき上げるように頭を撫で目を細める。
「そんな事あらへん‥‥なぁ、俺今日は決心してン。どうしても、伝えたい事があんねん。‥‥」
「‥おん、‥‥黙って訊くよ。やから、唇噛んだらアカン‥、」
悲しげに手を離す。
‥もぅ、唇に手をおいてもらわれへんのやね。
自分の指で噛んだ唇をなぞる。
アイツがいつもしてくれたように‥
黙って見ていたアイツが、
「寒いし、‥どっか店でも‥」
「イヤ、店に入りたない‥ねん。」
「ソッか‥じゃ、自販機で‥何がええ?」
「珈琲、‥‥」
チャリンッ‥‥ピッ、ガシャンッ‥‥
「ほいっ、‥」
「ありがと。」
手渡された珈琲が温かくて、アイツの心のような気がした。
ブラブラ歩いて気が付けば、川沿いの高架下にいた。‥
二人金網に凭れて、冷たい北風を避けて座っていた。
言葉はなくてただ俺の左だけが温かだった。
最初のコメントを投稿しよう!