季節外れの‥‥10

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公園に着くと既にくわえ煙草の井本がいて入口で待っていた。 ベタな話だが、携帯用灰皿はパンパンに膨れていた。 息せき切った俺をみて安堵するように笑い、 「なんも、走ってこやんでも良かったのに。‥俺、お前待つンやったら何時間でも‥‥」 言いかけて口をつぐむ。 「‥ごめん、俺からゆうといて遅くなって。」 一時も無駄にしたくなくて話を切り出そうとすると、 「ここは、声が反響するし、別のとこ行こや。」と、歩き出す。 「えっ?‥ぉん。」 アイツの横を少し遅れて歩く。 「どこ行く?‥お前は時間あんの?‥ 」 振り返り尋ねる。 「ぉん。‥」俯いたままで答えると、クスクスッと笑い声が聞こえる。 顔を上げてみると、優しい笑顔があった。 「全然変わってへんな‥お前はあの頃のまんまや‥‥」 立ち止まり、俺の前髪をかき上げるように頭を撫で目を細める。 「そんな事あらへん‥‥なぁ、俺今日は決心してン。どうしても、伝えたい事があんねん。‥‥」 「‥おん、‥‥黙って訊くよ。やから、唇噛んだらアカン‥、」 悲しげに手を離す。 ‥もぅ、唇に手をおいてもらわれへんのやね。 自分の指で噛んだ唇をなぞる。 アイツがいつもしてくれたように‥ 黙って見ていたアイツが、 「寒いし、‥どっか店でも‥」 「イヤ、店に入りたない‥ねん。」 「ソッか‥じゃ、自販機で‥何がええ?」 「珈琲、‥‥」 チャリンッ‥‥ピッ、ガシャンッ‥‥ 「ほいっ、‥」 「ありがと。」 手渡された珈琲が温かくて、アイツの心のような気がした。 ブラブラ歩いて気が付けば、川沿いの高架下にいた。‥ 二人金網に凭れて、冷たい北風を避けて座っていた。 言葉はなくてただ俺の左だけが温かだった。
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