季節外れの‥‥13

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「やっぱ、旨いなぁ。俺、一人やからあんまり鍋せんからなぁ。」 「ハハハ、一人鍋はむなしいやろな‥‥鍋したなったら呼んでや。」 「ほんまやな‥」 「なぁ、ずっと一人やったんか?‥」 不意に真顔で訊かれる。 「ぉん‥付き合った子も居ったけど、1ヶ月もたんかった。‥」 酒を煽りうつ向いてしまう。 急にしんみりなってしまい話題を探してしまう。 「何や俺の事ばっかり訊いて‥」 「お前、俺の事訊いてくれへんやん。‥何でも訊いてや。」 「せやなぁ‥訊きたい事なぁ。」 俺は頬に手を置き髪を弄る。 あらたまってゆわれてもな‥特に思いつかんな。 無意識に胸のリングをシャツの上から触る。 ‥今、優しく見つめる井本が目の前に居る。 只それだけで何もかもがどうでもよくなる。 これ以上望んだらアカンのやなくて、何の望みもない。‥ 「ンッ‥特にないなぁ。」 ホワァッと笑いながらゆうと、 「あらま、残念やな。何でも話すのに。」 そう言って笑う。 鍋をつつきながら井本があまり食べてないのに気付く。 「昔からそうやけど、あんまり食べへんな。‥」 「ン?俺?‥ええょ食べぃや。 ‥やって、藤原が目の前に居って、笑てて、一緒に酒飲んで‥‥ それで充分や。‥」 また、酒を煽る。 視線を逸らさずずっと俺をみてる。 この部屋に二人きりになってからずっと井本は俺をみてる。 俺が顔をあげると、必ず優しい瞳がそこにあって笑っている。 徳一の言葉が浮かぶ。 ‥好きな人の笑顔は自分に向いてて欲しいやん‥‥ ホンマやな‥それだけで幸せやな‥‥ 井本のコップに酒を注ぎ、取り皿を取る。 鍋からよそい、 「もうちょっと食べぃや。‥海老、殻剥こか?‥」 「おん、ええねぇ。お願いするわ。‥」
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