季節外れの‥‥13

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返事を促すように囁かれると、黙っては居られなくなる。 「‥こ‥‥怖いねん。‥ 何もかも棄てて、一緒に居りたい‥って思ってる自分が怖いねん‥‥ 折角、友達やから傍に居れんのに‥‥ 全部、‥ぶち壊してしまいそやねん‥‥」 涙でボロボロで井本の顔が見えなくなる。 立ち上がって俺の隣に座り、ペロツと舌で涙を舐めとる。 「ンッ、‥ぁ、アカンねんて‥‥」 「ゆうたらええねん‥そうゆう風にゆうてくれたら、俺、傍に居れるやン?‥‥」 頭を抱き抱えて撫でてくれる。頬には俺の貰ったリングの片割れ。‥‥ 井本はずっとこのリングをつけてたんや‥‥ 俺の名前の刻印された‥‥ 「‥た、か‥‥」 名前を呼びそうになる。 「呼んでや‥‥‥無理か? 一裕、何もかも棄てんでも只傍に居ってくれたらええねん。それ以上望まへん。 でけへんのやったら、俺が傍に居ってやる。 俺がお前に逢いに来る。‥‥」 なっ‥‥ 優しい瞳が俺を包み込む。 少しの間、髪をいとおしそうに撫でて耳元で囁く。 「理由がほしいんやろ?‥‥傍に居る。 好きやからッて、ゆうのはアカンのか?‥」 「‥‥」黙って頷く。 困ったように笑って、 「じゃぁ、‥‥ 二人とも今夜は酔うとる。‥酔い潰れて泊まったとしても、 多分、明日になったら憶えてへんかもな‥‥ 今夜はそうゆう事にしとこや‥‥」 「‥‥」 「俺が毎回理由つけてやるから‥ お前はなんも気にせんでええから‥ 後ろめたい事なんもあらへん‥ ‥なっ‥」 「たか‥‥ふ‥み‥」 「それでええょ。こっち向いてみ。‥ 今夜は一緒に居ろや‥‥」 胸の中から顔を見上げると、優しく笑った井本が俺を抱き締めた。 暖かくて、フワフワしてて、嬉しくて、俺もクシャクシャの笑顔で見つめ返した。
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