季節外れの‥‥15

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風呂から出てくると、前回と同じく髪が濡れたまま肩にタオルをかけて乾かさずにいる。 「何してんねんな。風邪ひくやん。」 慌ててドライヤーを持ってくる。 「ええねんて。直ぐ乾くし。」 「ええから、座りぃや。」 無理矢理座らせて頭をワシャワシャと乾かす。 「熱ないか?」 「おん。‥」 柔らかな髪が指の間を流れるようになびく。 フワッと、俺と同じ髪の香りが鼻を掠め嬉しくなる。 目を瞑ったまま俺にされるがままの横顔は、穏やかに微笑んでいる。 ‥ンフ、気持ち良さそうやな。‥ネコみたいや。 カチッ‥‥ 「はい、終了や。‥おっとこまえになったで。」 「おっ、ありがと。‥」 ドライヤーの熱のせいなのか、頬っぺと耳がホンノリピンクに色付いている。 ドライヤーを片付けて冷蔵庫からプリンを取り出しテーブルに置く。 箱を開けて、 「どっちから食べる?」 「ン?二つもあんの?ムッチャ、ラッキーやん。‥この店知ってンで。食べてみたかってん。」 「近くやのにいつでも食べれるんとちゃうん?」 「いや、‥俺、‥‥プリン食べてへんねん。 何年ぶりかな。味なんて忘れてるな‥‥」 と、照れた様に笑う。 「プリン好きやなかったっけ。‥何で食べへんかったんや。やっぱ、結‥‥」 結婚したら‥‥と言いかけて止めた。 俺には‥いや、この部屋に居る時は関係無い事や‥‥ この部屋だけは俺と貴史だけやから‥‥ 言葉に詰まった俺に不信そな顔をしながらも、優しく理由を教えてくれる。 「あんな、願掛け‥‥みたいなもんやねん。」 「ン?」 「いつか、一裕に逢えたら一緒に食べたいものッて、考えた時‥‥俺、プリンやってン。 憶えてるやろか。お前がいつも購買に売り切れる前に買いに走ってくれたやん。‥‥ 屋上でお前が来るの待ってる時間が好きやってン。 嬉しそに肩で息切らして二個のプリンを大事に持って‥‥その時の一裕の笑てる顔が好きやってン。 ‥‥まだ付き合う前の事や‥ もしかして、俺の事好きなんやろかって思える瞬間やってン。 片想いの時に一番幸せな時間やってン。‥‥ やから、俺‥結婚した時に食うのやめてン。‥」
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