季節外れの‥16

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毛布越しに何度も繰り返し囁くが、一裕の小さな嗚咽しか訊こえてこない。 ゆっくりと胸に抱き寄せて、毛布越しに耳を塞いでいない事を確かめる。 そして‥‥ 「あのリング‥‥ 俺と一裕の名前の刻印してあるリングな、‥‥ 先輩が内緒で作ってくれたンよ。‥ 婚姻届けを出した日の晩に‥くれてン‥‥」 話し始めた俺の顔を、毛布の隙間から覗く。 眼があった瞬間、昔の様にニカッと白い歯を見せて、 「ビックリしたやろ?…」 悪戯っぽく笑ってやると照れた様に俺の胸に顔を埋めた。 前髪を梳き、涙を拭い、まだ訳の解らない顔したままの一裕に ゆっくりと優しく話始める。 「色々とややこしいンやけど、順を追って説明するから、ええな。‥」 俺は、先輩との出会いから話始めた。 信じてくれるか分からないが、全て包み隠さずに訊いて貰いたかった。 俺のした事が一裕を苦しめる事に成らない様に、祈る様にリングを握り締めた。‥ ‥俺な、卒業後すぐにここから離れたンよ。‥‥街の風景に、一裕との想い出が在りすぎて正直、辛かったンや。 それから、アルバイトで雑誌の編集の使い走りをしててンな。 そこで、エライ世話になった先輩なンや。‥‥初めて俺の事を一人前に扱ってくれた人やねん。 一から仕事を叩き込んでくれたンよ。‥‥ 腕の中の一裕の顔を覗き込むと、じっと考え込む様に指を噛み俺の胸に耳を寄せている。 片手で一裕の髪を梳きながら話を続けた。 ‥‥二十歳に成ってからは、よぉ~呑みに連れてってもろたな。 一裕との事を正直に話出来ンの先輩だけやったし‥‥ 応援してくれてて、励まされたわ。 ‥絶対に待っててあげて。 その子の進む道の先には、アンタが居ててあげてなアカンよ。 そんな風に、いっつも応援してくれた。 俺が、お前の事を好きで居っても大丈夫やって‥ゆうてくれた。 もう一度一裕の顔を覗き込むと、俺の胸に顔を埋めまだ親指の爪を噛んでいた。 俺は黙ったまんまで指に手をやり、それ以上噛まない様に唇から離す。 それから、頬にキスを落として話を続けた。
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