季節外れの‥16

5/15

44人が本棚に入れています
本棚に追加
/343ページ
頑なに断り続けてた先輩も、俺が真剣に子供の事を考えている事に気付いて、 「ありがとう‥‥」 そう、一言ゆうてくれた。‥‥ 腕の中の一裕の顔を見ると、困惑しているようだ。 真ん丸な瞳で俺を見上げる。 「せやから、‥‥大事な人に再会出来たら、誤解されんようにコレを渡せ、って‥‥‥ 先輩が内緒で作っててくれたみたいで、‥ 俺の為やなくて、お前の為に‥‥ 先輩からの感謝の気持ちと幸せにならなアカンよ。 って‥ゆえって‥‥」 胸につけたリングを握り締め、ゆっくりと顔を上げる 。 驚いて見開いた瞳にはもう、涙はなかった。 震える唇からは言葉を発する事ができなかった。 「聞いてくれるか?……全部‥‥」 そう尋ねると、考え込む様にリングを握り締め俯く。 「難しく考えンでもええ、‥多分、一裕が考えてる通りや。 ‥‥そうゆう関係やねん。俺と先輩は‥ 夫婦であって夫婦やなかった。 ただの紙切れの上の関係やねん。 其だけの事や…」 「‥‥」 暗い部屋の中で、時計の音だけが聞こえていた。 「‥‥もう、2時まわったな。‥遅いし、続きは今度にしよか‥いっぺんに話しても消化でけへんやろ‥‥」 髪に指を掻き入れて抱き寄せる。 ゆっくりと俺を見据えて尋ねる。 「‥ホンマに、‥ずっと、‥俺だけやったン?」 俺は、昔のように耳元で‥ 「‥あぁ、ホンマや…信じてや‥‥」 そうゆうてやんわりと耳を舐める。 「‥ンっ‥‥ 貴史‥は、ずっと俺だけやったンやぁ…ホンマに、俺の事だけ‥‥ 嘘やなかったンや… 俺しか居らへんって‥‥」 弱い刺激に身体をビクつかせながら、俺の服の裾を掴む。 「‥貴史、」 「ン?‥なんや?…」 俺の頬を掌で、 まるで俺が幻で消えて終わないかを確める様に挟む。
/343ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加