季節外れの‥‥17

9/12

44人が本棚に入れています
本棚に追加
/343ページ
部活動も終わり生徒達が家路を急ぐなか、俺は片付けを済ましトボトボと家路につく。 買い込んだ食材があるため、真っ直ぐ部屋に帰る。 鍵を挿し込み一人きりの暗い部屋に入る。 ‥朝までアイツが居ったのって、ホンマやったンかな。‥ 何故かもの悲しく、昨夜の事が全て自分の妄想のような気がした。 灯りを点けるとテーブルの上にメモが置いてあるのに気付く。 ───洗濯物、忘れんと取り込んでや─── ‥アハハ、何や、ホンマに洗濯してくれたンや。 ベランダを見ると俺と貴史のシャツが肩を並べてはためいていた。ただ、それだけの事なのに ‥せやなぁ、これが日常になるンやったら。俺は‥ 他に何も‥要らへん‥‥ 見た瞬間に思ってしまった。 たかが、シャツを干してあるだけなのにそれが 幸せな一般家庭の象徴であるように思え、肩を並べて一緒に旗めいて、輝いているように見えた。 いつまでも眺めている訳にはいかず洗濯物を取り込みたたむ。 二人分の洗濯物を眺めてアイツが居ったって嘘や無かったンや、とぼんやり考え頬に笑みが浮かぶ。 夕食の準備に取り掛かる為に冷蔵庫を開けると、プリンの箱がまだ入っていた。 ‥何や、全部食べへんかったんや。気にいらんかったんやろか。 少し落ち込みながら箱を開けると‥ から箱の中にメモが一枚‥‥ ───なんやねん。もう食べさしてくれへんねんや。 ‥冷たいなぁ。 次も期待してるし、 ‥美味しいプリンやったけど、昨夜の方が 二人の時の方が旨かったで。‥‥貴史─── 「‥‥ン‥。なっ、なんやねんな。‥‥」 昔と変わらない癖のある文字がある。 メモを捨てるに捨てられず棚の奥にしまってしまう。 ‥アハハ、俺は乙女か。 自傷気味に笑いながらも、涙が滲み、アイツの優しさが胸を熱くする。
/343ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加