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「アカン、‥ホンマに考え方が女々しくなったな‥」
一つ一つ花弁のような痕をなぞり、もう一度強く自分を抱き締めて、アイツに想いを馳せる。
‥今頃、何してンやろか?
風呂からあがり頭を軽く拭いていると、鏡に情けない顔が映る。
‥しゃぁないよな。俺、アイツの事好きやから‥‥
一人言のように呟いた時に携帯が鳴る。
「もっ、もしもし。‥」慌てて声が上擦る。
「クスッ、お疲れさん。‥何慌ててンねん。」こらえきれない笑い声がする。
「あっ‥いや別に‥‥」
「ン? 声が‥‥また風呂やったンか?」
「ちゃっ、ちゃうわ!‥///」
「ハハハ、まぁええけど、風邪ひかんようにな。」
電話の向こうでクスクスと笑い声が続く。それを訊きながら服を着て脱衣所から出てベッドに座る。
「どや?今日はちゃんと仕事出来たか?」まだ笑いながら訊いてくる。
俺は訊きたくて仕方なかった声に、ドキドキし始める。
「ぅん、大丈夫やった。なぁ、貴史は‥‥寝不足大丈夫やったか?」
「ハハハ、アカン。むっちゃ眠かった。もうちょっとで乗り越すとこやった。」
「クスッ、アカンやん。」
心がむず痒くなるようなクスクス笑いの中での会話が楽しくて、何の意味もない会話を続けてしまう。
夕飯何食べた?
電車にこんな人居ったで。
今日見た夕日、聴いてた音楽‥‥
会話を途切れさせたくなくて‥‥
それでもいつしか途切れて‥‥
「なぁ‥‥一裕。俺、こんなん初めてやねん。」
アイツに似合わない切な気な声が訊こえる。
「‥ン? 何がや‥」
‥いきなりどうしたンやろ。そんな声されたら俺、‥‥
「何かな、‥ポッカリと心に穴が空いてるみたいやねん。‥ハハハ、変な話やろ。
一裕とうまい事いった筈やのに、‥‥
不安になんねん‥‥心配でたまらんねん。お前の不安が移ったんやろか?‥‥
お前の事が愛しくて‥好きやのに‥傍に居らへん事が腹立つねん。
けどな、‥お前の事想えば想うほどな、‥‥お前の‥一裕の泣き顔しか浮かばへんねん。」
「‥‥‥」
「しゃぁない事やけど‥‥、俺‥逢うたんびにお前泣かせてるからな‥‥」消え入りそな小さな声が耳に響く。
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