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「‥ン‥そやったな、‥ありがと。時間わかったら電話するから‥‥」
「ぅん、絶対やで‥‥」
「あぁ、‥」
携帯をポケットに入れ、もう一本煙草に火を点ける。
‥何やねん、何で変なとこで遠慮なんかすんねんな。
午後からは仕事をそっちのけで俺は、買い揃えなきゃならないリストを考えていた。
それが一通り終わると、今日の分と念のため月曜の分まで仕事を仕上げる事にした。
放課後にはいつもの様に義行がやって来て、慌ただしい俺を見て
「どうしたン? 何かあったン?」
と、怪訝そに訊ねる。
「ン?‥あぁ、色々せなアカン事があってな‥‥用事は出来る限り済ましとこかな、って‥‥」
言葉を濁す感じになったが義行にそれは通用しなかった。
「フーン、‥‥で、先生。電話はどうやったン?‥」
「ン‥まぁな。‥」
「やっぱ、風邪か何かなん‥」
「ン‥まぁな。‥」
「3日間どうすんの? お見舞がてら逢いに行ったら?」
上の空の返事をする俺を気にせず視線は徳一に釘付けのまま聞いてくる。
「‥ぃや、‥逢いには行かへん。‥けど、‥まぁええやん。‥‥」
「‥意味深やなぁ。‥‥もしかして、いよいよ御対面なん?」
「まだ、ちゃうよ。‥‥」
実際の話、今週末は無理やろうけど本社勤務になったらそうゆう事になるだろう。その時はその時で考えればええし、‥‥唯、今は‥‥貴史の具合が気になる。
‥大体、アイツは昔からそうやった。我慢ばっかりして、自分の弱いとこ人に見せんとええ格好ばっかりして‥‥
強がりだけで‥‥
やけど、‥お前は俺にだけは話してくれたやん。‥
俺にだけは‥‥
だから、俺もお前だけには、素直にゆえたんやで‥‥
なぁ‥貴史、お前が俺を護ってくれてた様に、俺もお前を護ってやりたいんや。‥
だから、お願いやから‥‥
俺にだけは甘えてや‥‥‥
今かてホンマは、出張先まで迎えに行きたいンやで‥‥
長距離電話の向こう側に居るお前を抱き締めたくても、遠過ぎて俺は自分自身の不甲斐なさに胸を掻きむしる想いに包まれる。
‥それでも、俺はアイツを護ってやりたい。
俺自身のやり方で‥‥
知らず知らずの内に胸のリングを抱き締めているのに気付き我にかえる。
そして義行に視線を移すと、何かを思い悩んでいるように見えた。
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