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「義行は先生の方が心配なンやろ?‥‥自分ン家に帰ったらええやん!」
「‥急に‥何で‥‥」
「‥‥帰ったらええねん。‥俺の事なんか、もう放っておいてや!
‥‥何で‥先生の気持ちはそんなにわかるねん。‥‥
俺と一緒に居るのに‥‥先生、先生って‥‥
ええ加減にせぇや!俺は何なん‥‥」
初めての言葉‥‥
どんなに喧嘩しても、決して言わなかった言葉‥‥
〈 家に帰れや。‥ 〉
「徳一、‥」
「訊きたない!」
言い放って、徳一は自分の部屋に隠る。
僕はゆっくりと靴を脱いで玄関に座り混んで動けなかった。
‥徳一を、傷つけてしもた‥‥そんなに深く先生との事気にしてたなんて‥
今まで考えた事もなかった‥‥
‥どうしたら許してもらえるンやろ?‥‥
わからへん、‥‥帰れやなんて絶対ゆわへん言葉やのに。‥‥
そんな言葉をゆわしてしまった自分が、情けなくて徳一を追いかけ行く事も出来ずに踞る。
そんな僕に二階から「何っ!やねん!」と怒鳴り付け、バンっ!と義行の枕が二階から転がり落ちてくる。‥
「アホっ!嫌いや!‥‥義行も‥先生も‥
‥もう、‥大嫌いや‥‥」
そして、嗚咽が聞こえ始める。
徳一としては、義行が先生の事を気にかけるのはよくわかってるのだが、‥ただ、自分の事よりも優先している気がして‥‥
何かあった時、‥‥自分の傍じゃなく先生の傍に居る気がして‥‥
義行の心が見えなくなっていた。
そんな徳一の心がわかる筈もなく、傍に行き抱き締めてやりたいのにどうしても身体が動かないでいた。
ボンヤリ、徳一の言葉が全部‥本心の気がして
‥帰った方がええンやろうな‥‥
嫌われてしもたンやし、‥‥
‥でも、このまんまやと、徳一はご飯も食べへんやろぅから‥‥
徳一との誤解を解きたいのにキッチンにむかい食事の支度をしてしまう。
お握りと煮麺‥‥徳一が一番最初に美味しいってゆってくれたメニュー。‥
用意をしてからお風呂をセットする。
そして一呼吸おいてから‥‥二階の部屋をノックする。
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