季節外れの ‥‥19

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‥何で電話にでてくれへんのや、‥俺の事‥‥ 嫌いになったンやろうな‥‥ そうやよな、‥こんな俺なんか‥ 我が儘で自分勝手で‥‥構ってくれる時は、嫌な事ばっかりゆうて、‥ でも、‥義行笑っててくれたやん。 そら、俺には可愛い気なんか無い。先生みたいに頬染めて恥ずかしがる事なんかよぅせん。‥ でも、‥俺の事一番、可愛いってゆうてくれたやん。‥ ‥抱き締めてくれたやん。 アホたれ、‥ ‥アホなんは俺か。‥ずっと義行に甘えてたんや。 何をしても、何をゆうても許してもらえるって‥ そうやよな、‥俺のおもりなんか、‥‥止めたいよな‥‥ 涙は容赦なく枕を濡らしていく。 キッチンの隅で枕を抱き締めたまま、消えてしまいたくなった。 が‥その前に。 ‥ごめん、義行。‥逢いたい‥謝りたい。 時計の音と、自分の嗚咽だけが訊こえる部屋に玄関の鍵が開く音がする。 カチャリ、‥バタンッ! 「徳一!」そのまま二階に上がる足音がする。 ‥よ、義行?‥‥ 返事が出来ない。 ‥もしかして、義行‥俺の我儘に振り回されてるだけなんかな。 それとも、同情してるだけなんかな。‥ 部屋に徳一が居ないとわかると下に下りてきて焦っている声がする。 「徳一!‥返事してや。‥‥何処に居るン?‥ 僕に逢いたいって‥‥ゆうてくれたやん。‥ ‥間違い電話やないよな。‥徳一‥‥」 情けない声がする。 「‥よ‥しゆ‥‥き‥‥」 小さな声がキッチンの隅の方で聞こえる。 「徳一?‥そこに居るン?」 真っ暗なリビングに灯りをつけ、キッチンを覗く。‥ 隅の方で枕を抱かえて、涙を拭いもせずに、真っ赤に腫れぼったくなった瞳の徳一が踞っていた。 その姿を見た途端、‥‥何も考えずに抱き締めてしまう。 「‥ごめん、僕が悪かってン。‥ 許してもらえるンやったら‥‥まだ、傍に居らせてもらえるンやったら‥‥ 僕を見てや‥‥」 それでも俯いたままの徳一は、 「‥‥義行、何で‥、何で‥電話に出てくれへんかったん。‥」 「ごめん、別れをゆわれそうで‥‥怖かってん。」 俯いた顔をあげ僕を見据える。 真っ直ぐに‥‥まだ涙で瞳は揺らいでいるが僕だけを見詰める。
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