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朝のラッシュを避けて電車に乗り込んだお陰で車内はガラガラやった。
二人掛けのシートに座る。
緊張して話も出来ないくせに、手は繋いだままだった。
俯いたままのアイツはトンネルに差し掛かったのに気付かず、大きな音をたてる電車にビックリして身体をビクつかせて照れたように笑った。
「なんやねン。大きイ身体して、」
「ちゃ‥ちゃうわ、気ィついてへんかったからじゃ。」
そうゆうて窓を見た。
硝子に映る顔が恥ずかしそに揺らぐ。
視線が合い何か言いたげにしては、唇を噛み締める。
俺は、繋いだ手の指先で掌を擽る。
映った口元がゆっくりと俺の名前を呼び、きつく結ばれる。
気が付いたら、アイツのうなじにキスしてた。そして、耳元で、
「拗ねンとって‥折角二人きりやのに勿体無いやン。」
「‥ちゃうから、拗ねたンとちゃう。俺な、」
握った手に力が入る。
「嬉し過ぎて、どんな顔したらええかわからへんねん‥」
「アハハ、なんやそれ。普通でええねん‥取り敢えず道真さんに合格祈願しよや。あとは‥、なんや‥まぁ、飯でも食って考えよ。」
「おん‥」
クシャクシャの笑顔が近づく。唇に一瞬触れると俺の肩に頭を預けた。
お互いに言葉にせんでもその《あとは》に意識が集中してた。
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