第一講 磁石のような二人

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 翌日の放課後。  私は早速予定が入ってなかったから、一人図書室へと向かった。  一方結城はというと、サッカー部の部活で忙しいようだ。  自分から頼んでおいて、何なのだとは思う。  だが、彼の成績の悪さは部活に一生懸命になった為の代償とも言える。  まぁ、努力家は両立させているから、個人の努力次第なのだろうけど。  結城は今、それをしようとしているのだろう。  だからといって部活を疎かにする訳にはいかない。  其処だけは私も共感する。  ―――カタン。  一番奥の見つけにくい死角の席に座り、私は一息吐いた。  其処は窓の近くで、グラウンドで練習をしているサッカー部の様子がよく見える。  その大半が、私の大嫌いな男だ。  少し吐き気がして、眩む頭を支えながら今度はより深く椅子に腰掛けた。 「……」  図書室には当番の図書委員くらいしかおらず、とても静かな空間が広がっていた。  何とも心地よい空間である。  私は暇潰し用の本をバッグから取り出し、黙々と読み進め始めた。  はっ、と意識を戻して時計を見る。  気が付いた時には一時間半ほど経っていて、サッカー部も既に練習を終えて解散した後だった。  はっとして、勢いよく本を閉じる。  ここは入り口からは見えにくい場所である。  もしかすると見つけられずに帰ってしまっているかも知れなかった。 「やばい、まさか無駄足?」  急いで広い場所へと駆け出す。  すると、一人頭を抱えて小さく唸っている一人の黒髪少年がいた。  そう、結城である。  結城は私の姿を視界に捉えると、今にも泣き出しそうな情けない顔でじっと見上げてきた。  眉は八の字に垂れ下がり、目はやや潤んで見えた。 「何だよ、榎本、いたんなら言ってくれよ……。綾咲に聞いたら図書室に行ったって言ってたから、来てみたら姿が見当たらないし、もう帰ったのかと思って……頼んで早々幻滅されて、見捨てられたんじゃないかって、真面目に後悔してたんだからなっ」  図書室だということも考慮しているのだろう。  声を張り上げたいところを必死に抑えて、結城は擦り切れた声で泣きそうになりながら詰め寄ってきた。  練習で声を張り過ぎたのだろうか。  聞いているこっちの喉がイガイガしてくる。
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