第一講 磁石のような二人

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「ふっ。そっちだって同じじゃんかよ。同じこと言ってどうすんの」  ついさっきまでの情けない顔が嘘だったかのような、爽やかな二枚目顔。  うん、こいつが陰でモテている訳が解った気がする。  けど、私がどうなるということは一切ないけど。  そんなことを考えながらも、私はつい先程の問いが再び繰り返されないことを祈っていた。 「……で、なんでなの?」  あぁ、私は自分でフラグを立てていたようだ。 「嫌なら、無理には聞かないけど」 「……たいした理由なんてない。けど、昔から男子って、馬鹿騒ぎして周りの迷惑考えなかったり、女子の着替えとか覗いたりスカートめくりする馬鹿もいて……。私はいつも、そういう奴から女子とか友達を守ってる側だった。だから、うんざりしてた。全部が全部嫌な奴じゃない事くらい頭では解ってるけど、それだけじゃどうしようもないくらい嫌いになってた。気付いた時にはもうどうにもならない状態で、自分一人じゃ治せなくなってた」  意外とすんなり喉から出てくる言葉に、私自身が一番びっくりしていた。  結城も教えてくれないと思っていたのか、意外そうに目を見張っていた。 「あぁ、それだけじゃないかも。中等部の頃、信じてた男子に裏切られたり、根も葉もない噂を流されたりしたっけ……それが、決め手だったかな。ハハ。弱いよね、これくらいの事でさ」  私は自嘲気味に力無く笑った。  今度は別の意味で、結城は目を見張ってずっと私の方を見ていた。  ほんの少しだけ、顔色が変わった気がする。  ―――いや、雰囲気が変わったのかもしれない。  ふっ、と笑顔だった顔が冷静な無表情に変わった。 「何処が? 最低だよ、そいつ等。……それに、榎本。自嘲するような言い方はやめろ。お前は何も悪いことなんてしてないし、仕方のないことだってある」 「……」 「……ごめん、余計な世話だったよな。忘れて」  今まで聞いたことがないくらい低くて抑揚のない声に、思わず身体が強張った。  それに気付いたのか、結城はいつもより少し優しい声色で一言声を掛けた。  カタン、と椅子の音が鳴ったかと思うと、結城は立ち上がって机の上を片付け始めた。  時計に目をやると、もう最終下校時間になろうとしていた。  図書委員の娘も、はっとしたように片付けの準備を始めようと慌てふためいていた。
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