第六講 ほどけた結び目

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 淡々と話を進めていく伎崎に、私は思考が回らなくてただ惚けていた。  静かな店内には、小さな会話の音とクーラーの起動音しか聞こえない。  テーブルに置いてあった水の入ったコップが、表面に多くの水滴を纏って周囲に水たまりを作っていく。  溶けた氷が、涼しげな音を立てて動いた。 「結城智明は、榎本小夏に惚れている」  唐突に、伎崎は呟いた。  呟いたというには少し大きな声で、はっきりとした音だった。  またもや私は耳を疑って、再び硬直する。  言っている意味が解らなかった。 「気持ちは、言葉にして伝えなければ解らない。それは、お前が一番よく解っているはずだ」 「そんなこと言ったって……」 「僕がお前に惚れていることも、言われなければ解らなかったことだろう」 「うっ……」  なら何故、結城から聞いていないだろうに、伎崎はそうだと言い切れるのだ。  その思いだけが、頭の中で反論し続けていた。  そんなはずはない。  私を好きになる要素なんて、何処にもない。  ずっと、そう思っていたのだから。  周りの音が全てシャットダウンされて、伎崎の言葉だけが浮かび上がってくる。  外の存在すら忘れてしまうほど、信じがたい言葉。  それが、目の前にいる人物の口から飛び出した。 「あの馬鹿は今日、試合に出るらしいぞ」 「え……」  試合に出る。  もう崩壊寸前の爆弾と化した膝を抱えて、サッカーをする。  これほど、危険な行為は他にない。  ぎょっとした私は、全身から血の気が引いていく感覚に襲われた。  それでも伎崎は、相変わらず仏頂面のままだ。  ほんの少しだけ、いつもより深いしわを眉間に刻んで。 「今頃、学校のグラウンドでアップでもしている所だろう。……行かなくてもいいのか?」 「行くも何も、私にはどうすることも……」 「出来るだろう。いや、お前だからこそ出来ることがあるはずだ。男ならば誰しも、惚れた女に泣き落としで懇願されたら従わざるを得ないだろうからな」  カランッ、と涼しい音を立てながら、伎崎は冷静に水を飲んでいる。  一方私は、動揺のあまり喉がどんどん乾いていて、上手く言葉が出せずにいた。  本当に、彼の言っている意味が解らなかった。  何が、言いたいの?
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