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一人。
喫茶店の窓際の席に取り残された僕は、うなだれながら深い溜め息を吐いた。
「……なんて顔で、笑うんだ」
榎本小夏は、僕に向かって心から笑いかけていた。
その笑顔が本当に可愛くて、情けないことに顔がひどく熱を帯びた。
その自然に起きてしまった反応に、改めて僕が彼女に惚れていることを痛感させられた。
それはとても息苦しいが、非常に温かくてじんわりと心の中に広がっていく。
これが、恋なのだろう。
我ながら、似合わない言葉だ。
「あり? エンマじゃん」
聞き覚えのあるわざとらしげな声に、僕は無意識のうちに眉間にしわを寄せた。
顔を上げた先にいたのは、幼い頃から何故か寄りついてきていた、腐れ縁の馬鹿の姿があった。
「……銀(ぎん)か、何のようだ」
「何って言われてもなぁー。暇だったからぶらついてただけだしよぉー?」
「ふん、相変わらず暇な奴だな」
いつものように、銀はへらへらとしながら何故か僕の目の前の椅子に腰を落ち着かせていた。
こういう図々しい所は、昔から何も変わらない。
それが少し、救いでもあるのだが。
「今日は何故こんな所にいる? 確か、結城智明の試合を応援しに行くとか言っていなかったか? 仲が良いのなら、行ってやるべきではないのか」
「いーんだって、別に。オレ等がいたら、榎本の告白の邪魔になっちゃうじゃん?」
「……知っていたのか。それにしても、いつ気付いた?」
僕が怪訝そうに顔をしかめて睨むと、銀はケタケタと笑いながら僕を指差した。
「オレ達、どんだけ長い付き合いだと思ってんだ? 考えてることなんて、全てお見通しなのだよっ!」
アッハッハッ、と胸を張りながら高笑いを決め込む銀に、僕は呆れて溜め息を吐いた。
本当に、おかしな話である。
こんな万年赤点でテスト前に毎度泣きついてくるような奴に、考えを全て読まれているだなんて。
腹は立つが、こいつなら仕方ないと思えてくる。
「……で、今日の本来の目的は何だ。どうせ、宿題を写させろとか言うんだろう?」
「もちのろん! そのついでに、ツンデレな伎崎エンマクンに色々恋バナをお聞きしようと思いやしてねぇ……でへへへっ」
「気色悪い、ニヤつくな、そして宿題は写させん」
「えぇっ、なんでぇ!?」
これくらいで真面目に驚くな、馬鹿馬鹿しい……。
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