第七講 気持ちの“ウラオモテ”

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  <side‐小夏>  汗だくになりながら、やっとの思いで学校のグラウンドに到着した。  其処には他校のサッカーチームと試合をしている、うちの学校のサッカー部員達の姿があった。  駆け寄って、結城の姿を探す。  だが、なかなか見つからない。  早くしないと、手遅れになってしまうかもしれない。  だからと言って、ここから名前を叫ぶほど恥は捨てられなかった。  もう、何処にいんのよ……っ! 「あれ、榎本さん? どうかしたの?」 「あ、えっと。……千葉さん」  涙目で苛立っている私に声を掛けてくれたのは、サッカー部のマネージャーをしている千葉奈々子(ちばななこ)さんだった。  彼女は「覚えてくれてたんだ」と、嬉しそうに微笑んだ。  明るく太陽のようなその笑顔に、近くにいたベンチの部員達も目を奪われて惚けている。  はっとした私は、急いで事情を千葉さんに伝えた。  一瞬驚いたように目を丸くしていたが、心当たりがあったのか彼女はすぐに私の話を信じてくれた。 「もう……あんなにしつこく確認したのに、やっぱりそうだったんだ」 「お願い。あの馬鹿、何とかして止めないと!」 「それはきっと、榎本さんの方が適役だと思うな」 「えっ?」  適役の意味が解らず首を傾げている私に、千葉さんはまた優しく微笑んだ。 「あいつ、昔から榎本さんには甘かったから。二年前だって、いつも榎本さんのことばっかり見てさ。部長に『練習しろぉ!』って言われても、何だかんだでずっと目は同じ所に向いてる。それが、榎本さんだったんだよ?」  伎崎にも言われた。  “結城智明は榎本小夏に惚れている”と。  これも、似たようなことな気がする。  でも、あまり自惚れたくないし、信じ切れない自分がいる。  二年前に、裏切られたから。  本当は違うんだってことくらい解っている。  頭では解っていても、なかなか上手く整理することが出来ない。  そんな自分が嫌だからこそ、私のことをよく思っている人なんていないと思い込んでいた。  でも、そんなことはなかった。  伎崎は、本気でそう言ってくれたのだと思う。  そう、思いたい。  ―――ピピィーッ。  タイムアウトを知らせる、笛の音が響いた。  すると、帰ってきた選手の中に見覚えのある顔を見つけた。  ……結城だ。
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