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<side‐小夏>
汗だくになりながら、やっとの思いで学校のグラウンドに到着した。
其処には他校のサッカーチームと試合をしている、うちの学校のサッカー部員達の姿があった。
駆け寄って、結城の姿を探す。
だが、なかなか見つからない。
早くしないと、手遅れになってしまうかもしれない。
だからと言って、ここから名前を叫ぶほど恥は捨てられなかった。
もう、何処にいんのよ……っ!
「あれ、榎本さん? どうかしたの?」
「あ、えっと。……千葉さん」
涙目で苛立っている私に声を掛けてくれたのは、サッカー部のマネージャーをしている千葉奈々子(ちばななこ)さんだった。
彼女は「覚えてくれてたんだ」と、嬉しそうに微笑んだ。
明るく太陽のようなその笑顔に、近くにいたベンチの部員達も目を奪われて惚けている。
はっとした私は、急いで事情を千葉さんに伝えた。
一瞬驚いたように目を丸くしていたが、心当たりがあったのか彼女はすぐに私の話を信じてくれた。
「もう……あんなにしつこく確認したのに、やっぱりそうだったんだ」
「お願い。あの馬鹿、何とかして止めないと!」
「それはきっと、榎本さんの方が適役だと思うな」
「えっ?」
適役の意味が解らず首を傾げている私に、千葉さんはまた優しく微笑んだ。
「あいつ、昔から榎本さんには甘かったから。二年前だって、いつも榎本さんのことばっかり見てさ。部長に『練習しろぉ!』って言われても、何だかんだでずっと目は同じ所に向いてる。それが、榎本さんだったんだよ?」
伎崎にも言われた。
“結城智明は榎本小夏に惚れている”と。
これも、似たようなことな気がする。
でも、あまり自惚れたくないし、信じ切れない自分がいる。
二年前に、裏切られたから。
本当は違うんだってことくらい解っている。
頭では解っていても、なかなか上手く整理することが出来ない。
そんな自分が嫌だからこそ、私のことをよく思っている人なんていないと思い込んでいた。
でも、そんなことはなかった。
伎崎は、本気でそう言ってくれたのだと思う。
そう、思いたい。
―――ピピィーッ。
タイムアウトを知らせる、笛の音が響いた。
すると、帰ってきた選手の中に見覚えのある顔を見つけた。
……結城だ。
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